1978年11月18日、南米の小国ガイアナの奥地で人類の歴史上まれに見るおぞましい大事件が起こった。カルト宗教団体、人民寺院の教祖ジム・ジョーンズことジェームズ・ウォーレン・ジョーンズが、自らの名を冠した密林の共同体ジョーンズタウンで暮らす信者たちにシアン化合物入りのドリンクを飲むよう仕向け、900人以上を死に追いやったのだ。犠牲者の中には約250人とも300人とも言われる子供が含まれ、むりやり毒物を注射されたり、銃で殺害された者もいた。アメリカ政府やマスコミを敵視し、狂った誇大妄想を膨らませていたジョーンズは信者に対して“革命的自殺”の必要性を叫び、事前に何度も集団自殺の予行演習を繰り返していたという。これが史上最も有名なカルトによる集団自殺事件のあらましである。

この“人民寺院事件”をベースにした『サクラメント 死の楽園』は、消息不明だった妹の安否を確かめようとするファッション写真家と実在のニュースサイト、VICE社のジャーナリストとカメラマンが、偶然にも集団自殺の現場を撮影していくという架空の設定のドキュメンタリー風スリラーだ。この“偶然にも”という部分がP.O.V.形式の恐怖映画では肝心だが、実際の人民寺院事件においても外部からの訪問者が存在していた。信者への虐待や強制労働といった人民寺院とジム・ジョーンズをめぐる幾多のどす黒い噂の真偽を探るため、民主党のレオ・ライアン下院議員とテレビ局の記者、信者の家族で構成された視察団が現地を訪れていたのだ。滞在中に人民寺院の異様な実態を垣間見た一行は、アメリカ帰国を希望する信者数名を連れて立ち去ろうとしたが、ジョーンズタウン近くの空港で武装した信者たちに銃撃され、ライアン議員ら5人が死亡。問題の集団自殺はその直後に発生した。その様子は1980年のパナマ、スペイン、メキシコ合作の劇映画『ガイアナ人民寺院の悲劇』(ルネ・カルドナJr.監督)で、荒削りながらも妙に迫力のこもった描写で再現されている。

『サクラメント 死の楽園』は舞台を現代に置き換え、固有の名称を曖昧にし、製作規模に合わせてさまざまな要素をコンパクト化しているが、よくある“実話にインスパイアされたフィクション”にとどまらない現実味を獲得している。人によってはジム・ジョーンズをモデルにした教祖“ファーザー”の人物像や悪行が具体的に描かれていない点に物足りなさを感じる向きもあるだろうが、本作の狙いはあくまでニューヨークから某国奥地のコミュニティ“エデン教区”を訪れたジャーナリストら3人の視点を通して、惨劇へと至る取材のプロセスを観る者に“目撃”させることにある。物語上の空間、時間、登場人物を限定した上でドラマも必要最小限にとどめ、カメラが記録した奇怪な出来事の臨場感を体感させるファウンド・フッテージ=P.O.V.映画の王道的な作りになっている。

集団自殺という題材が題材だけに、つい私たち観客はどれほど阿鼻叫喚の残酷シーンが炸裂するのかと身構えてしまうが、ご覧の通り、完成した映画はグロ描写そのものを売り物にしていない。驚くほど真面目に節度を保ち、シリアスにして繊細なリアリズムを貫いた迫真の疑似ドキュメントに仕上がっている。とりわけ秀逸なのは、エデン教区の信者たちの生活風景を捉えた牧歌的なムードの映像に不穏な気配がせり上がってくるサスペンス演出だ。サヴァンナという口のきけない少女らに接するうちに主人公らが察知する違和感が、じわじわと肥大化していく様が実に生々しくスリリングに表現されている。さらに中盤、大きな十字架が立てられた礼拝堂でジャーナリストのサムが“ファーザー”と会見するシーンの居心地の悪さは格別だ。仕事で誰かにインタビューをした経験のある人ならよりリアルに思い当たるだろうが、大勢の熱狂的な信者の歓声とともに悠然と登場した異形の教祖に、単身勝負を挑まざるをえないサムの状況はまさに悪夢のごとき究極の完全アウェー。あらゆる質問を飄々(ひょうひょう)とかわされるサムの焦燥と無力感、そして“ファーザー”の得体の知れないカリスマ性とパラノイアを鮮烈に表現した見事な場面である。

そして本作は、1970~80年代のオカルト映画の様式を現代に甦らせた『The House of the Devil』(09)、閉鎖寸前のホテルを舞台にした心霊映画『インキーパーズ』(11)などで一部に高い評価を得ながらも、地味な作風ゆえにブレイクせずにきたアメリカン・インディーズ・ホラーの気鋭監督タイ・ウェストの新境地でもある。ご存じの通り、P.O.V.は映画のデジタル化が急速に進んだ21世紀におけるホラーの最もトレンディな形態だが、それらは心霊、超能力、エイリアン、U.M.A.をモチーフにしたものが大半である。『マーサ、あるいはマーシー・メイ』(2011/ショーン・ダーキン監督)、『Sound of My Voice』(2011/ザル・バトマングリッジ監督)といった昨今のアメリカ映画でしばしば取り上げられているカルト、洗脳という社会的テーマと結びついた本作は、極めて異色で興味深いP.O.V.映画と言えよう。

先ほど筆者はウェスト監督の演出を“節度が保たれている”と書いたが、それでもクライマックスの集団自殺シーンのインパクトは凄まじいものがある。実際のジョーンズタウン事件における集団自殺の模様はカセットテープの音声として記録が残っており、ウェスト監督とプロデューサーのイーライ・ロスが参照したであろうことは想像に難くない。呪われた地上の楽園の崩壊とその後に訪れる不気味な静寂は、事件発生から35年以上経った今も世界中を戦慄させ続けているのだ。